人吉球磨地方復興支援プロジェクト

人吉球磨アンバサダーズ
インタビュー

人吉球磨アンバサダーズ インタビュー

斉田 季実治

気象予報士

斉田 季実治 気象予報士

Ambassador 06

斉田 季実治

KIMIHARU SAITA

気象予報士

いつか起きる災害に備えるためには、
天気に興味を持ち、楽しむことが重要だと考えています。

NHKの報道番組「ニュースウオッチ9」で気象キャスターを務めるなど、気象予報士として活躍されている斉田季実治さん。生まれは東京都ですが、小学5年生から高校3年生までの青春時代を過ごしたり、NHK熊本放送局に勤務されたりと、熊本県とは縁が深いそう。人吉・球磨での思い出を語っていただきつつ、令和2年7月豪雨での「後悔」と「検証」を活かすために私たちに何ができるのか、斉田さんとともに考えました。

出身は熊本と答えることも。
今でも熊本とのつながりをしっかりと感じています。

斉田さんは東京都生まれですが、熊本県ともご縁が深いそうですね。

はい。父が林野庁に勤めていたこともあり、これまで一都一道二府四県に住んだことがあります。中でも熊本は、小学5年生から高校3年生の青春時代を過ごした思い出の地。出身は熊本と答えることも多いですね。

北海道大学在学中に気象予報士の資格を取得し、北海道のテレビ局で報道記者として働いていたのですが、より専門性を活かした仕事をしたいと思い、30歳になるときに福岡にある気象会社に転職しました。そこでNHK熊本放送局の気象キャスターになるための採用面接の機会が巡ってきたんです。気象会社の担当者は「熊本出身だから」という理由だけで私を推薦してくれて(笑)、熊本は地元愛が結構強いということもあってか面接でも話が盛り上がって無事に採用となりました。なので気象キャスターとしてのキャリアは熊本からスタートしたんです。

2010年には東京での気象キャスターオーディションに合格して上京しましたが、2016年の熊本地震の直前まで家族が熊本市内に住んでいたので、東京と熊本を行き来する生活をしていました。母校の県立済々黌高校の同窓会に顔を出すこともありますし、今でも熊本とのつながりをしっかりと感じています。

人吉・球磨での思い出はありますか?

最近では2014年9月に家族旅行で行きました。熊本市から「SL人吉」に乗って、鰻を食べ、温泉に入り、焼酎を飲み、球磨川くだりをして。これぞ夏休みという感じで、すごく楽しかった思い出があります。
球磨川くだりの船頭さんが天気に詳しい方で。その日は晴れていたのですが、遠くの空を見て「雨が来るかもしれない」とおっしゃったんですよね。息子に「先に(天気予報を)言われている」とつっこまれた記憶があります(笑)。

その家族旅行の前には、夫婦で訪れて花火を見たこともあります。青井阿蘇神社も思い出の地ですね。宮司さんに写真撮影をお願いしたら、シャッターを切る直前に「あれ、斉田さんじゃないですか?」と気づかれて。東京ではそんなに気づかれることはないのですが、熊本ではたくさんの方に見ていただいていたのか、よく声をかけていただきましたね。

それから、人吉・球磨といえば霧。よく「1年に100日は霧」と言われる気候ですが、実際に気象データを調べてみたら、最近の10年間の平均(2011年〜2020年)で、年間103.7日も霧が発生していました。特に10月から1月は月に10日以上。盆地だから朝に冷えやすいですし、川が通っていて水もあるので、霧が発生しやすいんですよね。ただこの影響で雲海がきれいに見えるので、写真撮影がお好きな方はよく行かれるのではないでしょうか。

斉田 季実治 気象予報士

人吉・球磨には楽しい思い出がたくさんあるという斉田さん。いつかまたSL人吉にも乗ってみたいとのことです。

「もっと何かできたのではないか」という後悔は今でもあります。

令和2年7月豪雨の水害のニュースをお知りになったとき、どんなことを最も心配されたのでしょうか。

2020年7月3日の夜のことはよく覚えています。西日本で大雨の予報になっていましたが、夜になって鹿児島県で猛烈な雨を観測し、いわゆる線状降水帯ができはじめていたので、九州の大雨を中心にした放送に急遽変更しました。

朝までの暗い時間帯に熊本県南部に雨雲が北上する動きを見せていたので「球磨川流域に活発な雨雲がかかりそうだ」と思ったのですが、全国放送では言及できませんでした。特定の川だけを言うと、ほかの川は問題ないように聞こえてしまう可能性がありますし、まだ雨が強まっていない段階で川の氾濫について言及するのは難しかったからです。

人吉・球磨は自分もよく知っている土地なだけに、限られた時間の中でどのように情報を伝えたらいいのだろうという葛藤はすごくありました。もともと防災に役立つ放送がしたいと思って報道記者から気象キャスターを志したのに、十分な避難の呼び掛けができないまま地元の熊本であれだけ大きな被害が出てしまった。「もっと何かできたのではないか」という後悔は今でもあります。

Twitterでも「あそこまでの豪雨と被害になることは想定できず」とコメントされていました。なぜ、あれほど豪雨被害が甚大になったとお考えですか。

気象庁気象研究所の発表で、球磨川流域に記録的な大雨をもたらした線状降水帯は、2009年以降に九州で発生した線状降水帯のうち、規模が最も大きく持続時間も最長だったとあります。この線状降水帯は、梅雨前線上の小さい低気圧に向かって、雨雲のもととなる湿った空気が大量に流れ込んで発生しました。さらに、上空に寒気も流れ込んで、非常に不安定な大気の状態だったので、近年の豪雨災害の中でも最も背の高い積乱雲が線状降水帯を形成し、予想をはるかに超える雨が降ったわけです。

不運が重なったとも言えますが、今思えば予兆がいくつもありましたし、我々も気象キャスターとして、もう少し危機意識を持って伝える方法があったかもしれないと思います。

SL人吉

斉田さんも乗られたSL人吉は、5月・6月の土休日に熊本〜鳥栖間で運行されることが発表されました。

天気に興味を持っていただくことで
率先避難者が1人でも増えるといいですね。

災害発生時は、正確な情報を迅速に伝達することが難しくなる部分もあるかと思います。そうした中で、斉田さんが情報を伝える際に最も意識しているのはどのようなポイントでしょうか。

冷静に正確な情報を伝えるというのはまず基本としてあるのですが、予想はあくまで予想なので、実際どうなっているのか、リアルタイムでデータを見ながら、最新の情報を伝えるように努めています。

情報は正しいだけではダメで、行動につながって初めて意味のあるものになります。実際に行動してもらうためにどうしたらいいのか、どんな伝え方がいいのか、どうしたら興味を持ってもらえるのか。いろいろと試しながらやっています。

斉田さんは防災士の資格もお持ちですが、防災という観点で我々が気をつけておくべきことを教えてください。

よく正常性バイアスと言われますが、「自分は大丈夫」という根拠のない自信を持たないことですね。災害はつい他人事に考えてしまいがちですが、いつ自分に巡ってくるか分かりません。日頃から備えることが大切だと思います。

とはいっても、その緊張感を保ち続けるのは大変ですよね。いつか起きる災害に備え続けるためには、日頃から天気に興味を持つこと、そして、天気を楽しむことが重要だと思っています。私自身、ニュースの天気予報だけではなく、5月17日からはじまる気象予報士が主人公のNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の気象考証を担当するなど、多くの方に天気に興味を持ってもらえるようにさまざまなアプローチを模索しています。

実は気象予報で得られる情報は毎年のように新しく増えているので、「実はこんな有益な情報もあるんですよ」と伝えるのも我々気象キャスターの重要な役割の一つだと思っています。たとえば台風による災害の危険性は、数日前からある程度分かるようになりました。また、実際にどの程度の危険が迫っているかについては、気象庁のホームページで土砂災害・浸水害・洪水害の危険度分布が発表され、ネット環境さえあれば誰でもリアルタイムの情報を得ることができるようになっています。

交通機関が事前予告をして運行を中止する「計画運休」のように「いつ」「誰が」「何をするのか」をあらかじめ決めておく「タイムライン(防災行動計画)」も普及していますし、線状降水帯については気象庁が10年後を目標に半日前の予測を目指しています。

自然災害や防災に関する情報はテレビだけでなくSNSからも得られますし、ぜひ避難行動にも活かしていただきたいです。東日本大震災の時もそうでしたが、人は誰かに「一緒に避難しよう」と声をかけてもらえるだけで安心して動けるものなんです。天気に興味を持っていただくことでこのような率先避難者が1人でも増えるといいですね。

斉田季実治 気象予報士

普段から空を見上げることが多いという斉田さん。取材当日も空を見上げて、吉兆とされる「彩雲」の存在を教えてくれました。

これから必要不可欠となってくる「宇宙天気」。
地上の天気予報と一緒に気象キャスターが宇宙天気を伝える未来が来ることを想定しています。

今後チャレンジしたい目標や夢を教えてください。

日本ではまだあまり知られていないのですが、太陽活動の変化などを伝える「宇宙天気」がこれから必要不可欠となってくると考えています。地上にいると熱とか光とかの恩恵だけですが、実際には太陽で爆発が起こるといろんなものが飛んできて、GPSや衛星が影響を受けてしまうんですよね。そうするとたとえば車の自動運転なんかにも関係してきます。

近年は宇宙進出が急速に進んでいることもあり、人々が日常的に宇宙に行く社会が近い将来実現するかもしれません。地上の天気予報と一緒に気象キャスターが宇宙天気を伝える未来が来ることを想定して、昨年から宇宙ビジネスのコミュニティ「ABLab」で宇宙天気プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めています。宇宙災害の危険性など、もっといろいろと発信できないか模索していきたいと思います。

私自身もいつか宇宙に行ってみたいですね。子どもの頃は宇宙飛行士になりたいと思っていましたし、今も完全に諦めたわけではありませんよ(笑)。fin.

文:五月女菜穂
写真:後藤秀二

profile

斉田 季実治(さいたきみはる)

1975年生まれ。気象予報士。北海道大学在学中に気象予報士資格を取得し、ほかにも防災士や危機管理士1級などの資格も持つ。報道記者、民間の気象会社を経て、2006年よりNHK熊本放送局で気象キャスターとしてのキャリアをスタート。現在は「ニュースウオッチ9」に出演中。5月17日にスタートするNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の気象考証を担当。著書に「新・いのちを守る気象情報」(NHK出版新書)5月11日発売、「知識ゼロからの異常気象入門」(幻冬舎)、監修に「天気のふしぎえほん」(PHP研究所)など。
公式サイト

Ambassador 05

六角 精児|俳優

復活した肥薩線とくま川鉄道に揺られて、球磨焼酎を飲みにまた訪れたいと思います。

六角 精児俳優

Ambassador 04

巻 誠一郎|元プロサッカー選手

多くの人が現地を訪れるのが難しい今でも「意識し続ける」「気にかけ続ける」ということが大きな支援になる。

巻 誠一郎元プロサッカー選手

Ambassador 03

小倉 ヒラク|発酵デザイナー

人吉・球磨の未来は「この町が好きだからなんとかしたい!」っていう人たちが作るのがいいと思うんです。

小倉 ヒラク発酵デザイナー

Ambassador 02

中原 丈雄|俳優

僕がロケに行くことがなにかの力になるかもしれない。一日も早く人吉のみなさんの明るい笑顔が見られたらと願っています。

中原 丈雄俳優

Ambassador 01

轟 悠|宝塚歌劇団特別顧問

同じ痛みを理解できる人たちが人吉以外にもいる。そのことが次へ進む勇気のかけらになれば幸いです。

轟 悠宝塚歌劇団